お役立ちコラム

現役BtoBマーケターが厳選!現場で本当に役立つフレームワーク10選

マーケターにとってフレームワークは非常に心強い味方です。ものごとを体系的に整理するだけでなく、思考の引き出しを広げて新しいアイデアを生み出していくことにも役立ちます。特に営業優位で実践主義や経験主義が重視されがちなBtoB企業においては、行動に理論的な裏付けを与えてくれるフレームワークの恩恵は大きいです。

しかしフレームワークに対して有用性を感じつつも、次のような悩みを持っている方も多いのではないでしょうか。

「種類が多すぎて結局どれを使えばよいのかわからない……」
「理屈はわかったはずなのに自分の業務に上手く適用できない……」

ビジネスのフレームワークは主なものだけで数十種類、バリエーションも含めるとその何倍もの数が存在します。しかも状況の変化に合わせて日々新しいものが考案されるため、その数は増える一方です。
その全てを把握することは不可能であり、ナンセンスでもあります。フレームワークはあくまでも「自分の業務での思考や実践の助けとなる道具」に過ぎないからです。
覚えたフレームワークの数を増やしたところで売上が伸びるわけではありません。それどころか適切でないフレームワークを無理に適用してしまうことで仕事のやり方を歪めてしまうおそれもあります。「自分の業務・自社のビジネスモデルや戦略に適合するフレームワーク」を用いることこそが大事です。

私も自社のマーケティングを行うBtoBマーケターです。
配属されたばかりの新人時代は現状を無視して新しいフレームワークを嬉々として使っては的はずれなアウトプットを出す、という失敗を繰り返していました。
しかし一度「自分が任された業務の意味はなにか」「自社の戦略に照らしてやるべきことはなにか」という発想になり「それを考えるために有用な道具はなにか」を考え出すと、本当に必要な思考の道具=フレームワークが見えてくるようになりました。

この記事では私が自社のマーケティングや顧客のマーケティング支援に日々向き合う中で愛用するようになった「BtoBビジネスのマーケティングに本当に役立つフレームワーク」を10個に厳選して紹介します。

前半は「実務編」として、マーケティングの調査や施策の企画に使えるフレームワーク5個を紹介します。初めてマーケティング部門に配属された方はまずこの5個をしっかりと使いこなせるようになってください。
加えて後半は「戦略編」として、市場環境の分析や新規事業の立案に活躍するフレームワークをさらに5個紹介します。マーケターとしてより上流の活動に携わっている方はこちらが役に立つはずです。

マーケティングは幅広く奥深い世界ですが、フレームワークはその中での道標となるはずです。ぜひあなたのマーケターとしての成長・業務成果の拡大に活用してください。

1.【実務編】BtoBマーケティングの実務担当者が最初に押さえたい必修フレームワーク5選

マーケティングの実務担当者にとって、フレームワークの基本的な活用方法は「いま自分がやっている業務(調査や施策)が全体の中でどの位置づけにあるかを正しく把握する」ことと「全体の中で不足している部分・弱い部分を把握して適切な手を打てるようにする」ことの二点です。そして「全体=自社を取り巻く市場環境や利益を生み出すまでのプロセス」をどのように整理していくかは、BtoCとBtoBで市場の特性に由来する違いがあります。

この章ではBtoBのマーケティングにはじめて触れる担当者に是非最初に修めてもらいたい5つのフレームワークを紹介します。

  1. 3C:競争環境を知ることで進むべき道を探り出す
  2. STP:施策として「どんな人を狙うか」を定める
  3. 4P:施策として「何を変えるか」を決める
  4. マーケティングファネル:施策として「何をゴールとするか」を定める
  5. LTV:「利益の最大化」の観点で施策ポートフォリオを評価する

まずは「3C」の調査を行い、自社がどの市場でどんな競合と競争しているかをはっきりさせましょう。
具体的な施策の企画においては、「STP」「4P」「マーケティングファネル」を用いてそれぞれ「施策の対象(Whom)」「施策の内容(What)」「施策の目的(Why)」を適切に定めていきます。
最後に「LTV」の考え方で行っている施策が「本当の成果=利益の最大化」に貢献しているかを検討し、バランスを整えていきます。

▼実務フレームワークの関係図

1-1.3C:競争環境を知ることで進むべき道を探り出す

▼3Cのイメージ

〈概要〉

3C(スリーシー、さんシー)とは「Comapany(自社)」「Customer(市場・顧客)」「Competitor(競合)」の3つの要素の頭文字を取った言葉で、自分たちを取り巻く競争環境の現状を把握し進むべき道を探り出すためのフレームワークです。経営コンサルタントである大前研一が著作『The Mind of the strategist』(1982)の中で提唱し、広く使われるようになっています。

  • Comapany=自社の状況。売上高や収益性、シェア、ブランドイメージ、人材やナレッジの資源など。
  • Customer=市場全体や個々の顧客の状況。ニーズや市場規模、成長性、購買特性など。
  • Competitor=競合の状況。市場内でのポジション、シェア、参入難易度、各社の特徴や戦略など。

商売の絶対的な基本は「売り手(自社)と買い手(市場・顧客)の取引」です。そこに「自社以外の売り手=競合」を加えた3Cは、BtoB領域に限らず全てのビジネスに共通するフレームワークであるといえます。

〈使い方〉

「Comapany(自社)」「Customer(市場・顧客)」「Competitor(競合)」の各要素に対して分析を行い、効果的な施策や戦略の方向性を探り出していきます。
「市場のニーズに対し、競合にはなくて自社にはある強みは何かないか」などを探ったり、「競合と比較したときの自社の弱みを補いながら市場の関心に効果的に訴求たりしていくには、どのような施策をすればよいか」など3つの要素を足がかりにすることで効率的に分析を進められます。

〈解説〉

マーケティング実務では、施策や戦略の企画はもちろんですが特に「調査」において役立ちます。
効果・成果を出せる施策を行うためにも、「現状を正確に把握する調査」が施策の企画・実行と同じくらい重要です。調査にもさまざまな種類のものがありますが、そのほとんどは「3Cのいずれかの要素について詳しく知るためのもの」として分類できます。
現状分析を行う際に3Cのそれぞれの観点で検討を行うことでぬけもれを防げるでしょう。

▼Web領域の基本的なマーケティング調査の一覧と分類
自社(Company)の調査 市場・顧客(Customer)の調査 競合(Competitor)の調査
  • アクセス分析
  • ユーザビリティ分析
  • 自社SEO評価
  • ユーザーアンケート調査
  • ユーザーリスニング調査
  • 検索キーワード調査
  • 競合サービス調査
  • 競合コンテンツ調査
  • 競合SEO評価
⇒自社のサイトやサービスがどのように使われているかを特定する。 ⇒市場のユーザーがどのような課題やニーズを持っているかを特定する。 ⇒競合がどのようなマーケティングを行っているかを特定する。

3C分析は「自社の周辺の環境(ミクロ環境)の分析」という点で後述の5F分析と近いところがあります。
5Fがどちらかというと「これから参入しようとしている環境」に用いるのに対し、3Cは「自社が現在おかれている環境」の分析に多く適用されます。
初心者マーケターは「他に魅力的な市場はあるか」よりも「自社が現在おかれている状況はどんなものか」「その中で何をすべきか」を考えるべきなので、3Cの方から確実に使いこなせるようにしましょう。

〈活用例〉

上司から「Webマーケ支援サービスの競合について調べてレポートをまとめて」と指示を受けた。主要な競合10社のサービス内容を調べて簡潔にまとめてみたが、通り一遍の情報が並べられているだけで分析を深められていないのは自分の目で見ても明らかだった。
そこで3Cに基づいて自社のサービス内容や市場ニーズまで含めて調べ直したところ、「市場ニーズに対する各社のアプローチの違い」「各社が狙っているセグメントの微妙な違い」などがわかるようになった。さらにそうした分析を踏まえて「従来あまり意識されていなかったが、実は自社と狙っているところが非常に近い競合の存在の指摘」と「その競合に対する優位性をより際立たせるコンテンツ発信施策の提案」をレポートに盛り込んで提出した。
その提案はすぐに採用され、売上と市場シェアを伸ばすことが出来た。

1-2.STP:施策として「どんな人を狙うか」を定める

▼STPのイメージ

〈概要〉

STP(エス・ティ・ピー)は「Segmentation」「Targeting」「Positioning」の3つのステップの頭文字を取った言葉で、市場に対して自社がどのように向き合っていくかを定める、あるいは現在どのように向き合っているかを整理するときのフレームワークです。当代におけるマーケティング研究の第一人者であるフィリップ・コトラーの提唱だと言われています。

〈使い方〉

まずは大まかで抽象的な「市場」をさまざまな切り口で細分化(セグメンテーション)します。次に分けたセグメントの中から自社に最も適したものを攻略対象として設定(ターゲティング)します。最後により狭くなった「市場」の中で、競合との差別化ポイント・相対的な違いを打ち出してターゲット・セグメントでの立ち位置の決定(ポジショニング)を行います。
こうした手順を踏んで考えていくことで「自分たちがマーケティング施策を通じて働きかけていくべき人たちはどのような属性で、彼らにどのようなスタンスで関わっていけばよいか」を効果的に整理できます。

  1. Segmentation:全体市場を細分化する
  2. Targeting:適したセグメントをターゲットに設定する
  3. Positioning:セグメント市場内での自社のポジションを決める

〈解説〉

STPは「マーケティングファネル」とあわせて、具体的なマーケティング施策の企画の際に活躍するフレームワークです。
マーケティング施策とは「誰かに、何かしらの情報を伝えて、何かしらの態度変容を起こさせる」ことだと定義できます。この3要素(対象・内容・目的)を明確にして適切な手法を選ぶことが、良い施策実施の基本です。STPはその中で「対象=ターゲット・セグメントはどこか」「内容=自社をどのような存在だと思ってもらいたいか」の2点の整理に役立ちます。
既存のマーケティング施策がどの「対象」「内容」で行われているかを正しく把握することで、新しい施策の企画を「同じコンセプトを強化する」か「別のセグメントを狙って新たな開拓を目指す」かを適切に選べるようになります。

〈活用例〉

上司から売上を伸ばすために新しいマーケティング施策を提案するように求められた。自分なりに考えた企画書を出したが、「いまやっている施策の焼き直しにすぎない」と却下されてしまった。
STPでの分析を行ってみると、確かに自分の企画は既存の施策と狙いが丸かぶりで、新たな売上を狙う施策としては適切ではなかったと気づけた。いままで狙ってこなかったセグメントをターゲットとし、異なる切り口でサービスの価値を見せる企画を改めて考え、今度は採用を勝ち取ることが出来た。

1-3.4P:施策として「何を変えるか」を決める

▼4Pのイメージ

〈概要〉

企業がマーケティングのプロセスにおいて能動的に変えていける(=コントロールできる)要素は限られており、マーケティングの戦略・戦術はそうした要素をどのように組み合わせるかによって決まります。この考え方を「マーケティング・ミックス」といいます。

4P(フォーピー、よんピー)は「Product(製品)」「Price(価格)」「Place(流通・販路)」「Promotion(販売促進)」の4つの要素の頭文字を取った言葉です。アメリカのマーケティング学者ジェローム・マッカーシーが著作『Basic Marketing』(1960)で提唱し、マーケティング・ミックスの代表的なフレームワークとして定着しました。

  • Product(製品)=製品やサービスを通じて顧客に提供される価値の内容
  • Price(価格)=顧客がその製品を入手するために必要なコスト
  • Place(流通・販路)=製品が顧客の元に届くまでの流通や販路
  • Promotion(販売促進)=製品の価値を顧客に適切に伝えたり購買意欲を喚起させたりするための情報発信や働きかけ

〈使い方〉

4つのPのそれぞれに対してマーケターは次のような手を打つことが出来ます。現状を踏まえてボトルネックになっている部分を見極め、利益の最大化を目指します。

▼それぞれの”P”に対応するマーケティング施策の例
Product(製品)
  • 要望の多い新機能を加える
  • 特定のニーズに特化させて絞り込む、など
Price(価格)
  • 価格水準を上げて利益率を高める
  • 価格水準を下げて売上数を増やし市場シェアを高める、など
Place(流通・販路)
  • 新しい販売網を開拓して手に取りやすい層を増やす
  • 自社流通を確立させて中間コストを圧縮する、など
Promotion(販売促進)
  • 広告を出して新規の層への認知を拡大する
  • サイトのコンテンツを増やして検索流入からの問い合わせ獲得を増やす、など

〈解説〉

マーケティング活動の全体像を捉えるのにマーケティング・ミックスの発想を理解しておくのは大切です。
分業が進む現在、いわゆるマーケターの業務はPromotion(販促)領域に偏りがちですが、そこだけでできることは限られています。良い販促(Promotion)を行っても販売チャネル(Place)が狭ければ実際に手に入れられる人は少数にとどまり、良い製品(Product)であっても相場とかけ離れた価格設定(Price)であれば買ってもらうのは難しくなります。
いろいろ施策を行っても売上が伸びない時は、Promotion以外の部分に課題がないか落ち着いて考え直してみましょう。

また、関連するフレームワークに7Pがあります。
7Pは4Pにサービス業で重要な「People(人)」「Process(過程・体験)」「Physical Evidence(物的証拠)」の3要素を加えたものです。「XaaS(X as a Service」と言われるように、あらゆるビジネスを「サービス」として高付加価値化する動きがある近年では、これら追加3要素の重要性も増しています。

  • People(人)=サービス提供に関わる人
  • Process(過程・体験)=サービスを提供する過程 / サービスを受ける体験
  • Physical Evidence(物的証拠)=(本来は物的でない)体験を強化する物的な証拠や演出

〈活用例〉

売上が伸び悩んでいる製品(ソフトウェア)があり、販促施策(Promotion)をより強化してみたものの期待していたほどの売上増にはならなかった。
ユーザーインタビューを行ったところ、製品そのものには満足しているもののほとんど使われていない機能があること、価格がやや割高に感じられていることがわかった。
そこで機能を絞り込み価格も引き下げた廉価版(ProductおよびPrice)を新たに売り出したところ、市場のニーズによく合致して大きく売上を伸ばすことが出来た。

1-4.マーケティングファネル:施策として「何をゴールとするか」を定める

▼マーケティングファネルのイメージ

〈概要〉

マーケティングファネルは顧客(見込み客)がサービスを認知してから購入にいたるまでの顧客の心理状態の変遷を図式化したものです。一般的に各段階を進むごとに該当する見込み客の数がどんどん絞られていくことから「ファネル(漏斗)」の形に例えられます。

段階の作り方は各社のビジネスの形態によって様々ですが、BtoB領域では「認知→興味・関心→比較・検討→決定」の4項目が基本です。

  • 認知=そのような商品・サービスがあることは知っているが、それ以上の関心は持っていない状態
  • 関心=まだ購入まではするつもりはないが、機会があれば詳しい情報を知りたいと思っている状態
  • 比較検討=具体的な類似品との比較や最終的な購入の検討を行っている状態
  • 決定=購入決定という「最終的な行動」を実際に起こした状態

〈使い方〉

マーケターや営業が管理している全見込み客をいずれかの段階(フェーズ)に振り分け、フェーズごとの絶対数や一定期間におけるフェーズ遷移の数と割合(遷移率)を測定していきます。
遷移率が長期にわたり一定であれば、最終的に「購入」段階に到達させたい件数から「新たに関心をもってもらうべき件数」「新たに認知してもらうべき件数」が逆算され、各マーケティング施策の目標数値の根拠となります。
継続的に遷移率をモニタリングしていく中で数値の低下が見つけられれば、その段階の施策に何かしらの問題があるということなので、領域を特定して対策を打てます。

〈解説〉

マーケティング施策とは「誰かに、何かしらの情報を伝えて、何かしらの態度変容を起こさせる」ことです。態度変容はマーケティングファネルにおける「フェーズの遷移」として現れます。つまり「どれだけのフェーズ遷移を生み出せたか」こそが施策の成否を測る本質的な指標と言えます。
施策を評価する際は表面的な数値や印象ではなく、「ファネルにどれだけの影響を与えられたか」に常に結びつけて考える癖をつけましょう。

個別の施策だけではなく、マーケター業務の全体的なイメージをつかむ際にもマーケティングファネルというアイデアは有効です。
マーケターの仕事は「売れる仕組みを作ること」です。これは「マーケティングファネルの形をきれいに整えること」「ファネルでの見込み客の流れを円滑に保ち続けること」と言い換えることが出来ます。

例えば「リード(認知)→アポ(関心)」の遷移率(アポ獲得率)が低ければファネルは「頭でっかち」の形状になり、「認知度の高さを売上に結び付けられていない」状態になります。あるいは「比較検討→購入」の遷移率が低ければ、それが示すのは「商談における営業力の低さ」かもしれませんが、「条件に合わない見込み客をファネルに集めてしまっている」という可能性もあります。
常に自社のマーケティングファネルを思い描き続けることで「マーケターとしてやるべきこと」にアンテナを働かせることができます。

▼問題がある状態のマーケティングファネル

〈活用例〉

新規層に訴求して売上増を狙うため、大々的なマス広告施策(キャンペーン)を行った。市場調査ではキャンペーンにより確かに認知度は大きく伸びたことが示されたが、売上の増加にはほとんど結びつかなかった。

マーケティングファネルの各段階の数値を精査すると、キャンペーンにより流入してきた新規の見込み客はほとんどが次の段階に遷移せず、滞留していることがわかった。さらに掘り下げて調査すると、これまでとは異なる属性からの流入であったため従来用意してあった次の段階へのコンバージョン誘導が上手く行っていないことが判明した。

新規属性に合わせた誘導を追加で設置することで、ファネル内の見込み客が再びスムーズに流れるようになった。新規流入は一定の割合で「購入」まで到達し、売上増を達成できた。

1-5.LTV:「利益の最大化」の観点で施策ポートフォリオを評価する

▼LTVのイメージ

〈概要〉

LTVとはLife Time Value(ライフタイムバリュー)の略称で、日本語では「顧客生涯価値」と訳されます。 1990年代から注目されるようになった概念であり、「一人の顧客が生涯を通じて支払う総額」を意味します。BtoB風に読み替えると「一社の顧客が取引関係が終了するまでに支払う総額」となるでしょう。

厳密にはフレームワークというよりも、売上向上のための概念(コンセプト)あるいはその達成状況を図るための指標といったほうが適切です。しかしBtoBのマーケターにとっては特に重要な考え方であるため、紹介させていただきました。

〈使い方〉

LTVの算出方法に決まったものはなく、自社のビジネスモデルに適した式を採用するか、自分たちで式を立てることになります。
式の組み立て方はさまざまですが、「平均的にどれくらいの単価の取引が、どれくらいの頻度で発生し、それがどれくらいの期間継続するか」を軸とするのが基本です。

LTV = 顧客の平均購入単価 × 平均購入頻度 × 平均継続期間

特にマーケターの視点では「売上の拡大=新規顧客の獲得」となってしまいがちですが、既存顧客に繰り返し購入してもらったり(→リピート;購入頻度の増加)取引規模を拡大したり(→アップセル、クロスセル;購入単価の増加)といったアプローチでも売上は伸ばせます。
自社の既存顧客のLTVを定期的に確認し、追加営業の余地がないか検討する習慣をつけましょう。

〈解説〉

LTVが特に重要になるのは2種類あります。「単価が高く、その分最初の取引に漕ぎ着けるまでに手間(営業コスト)がかかる」か、「初回購入のハードルは低いが、乗り換えも頻繁で入れ替わりが激しい」というパターンです。前者はBtoBビジネス全般が、後者は近年増えつつあるサブスクリプションビジネスなどが該当します。

BtoB営業では完全新規の顧客との取引開始を「(取引)口座を開く」と呼ぶことがあり、たとえ少額であっても大きな成果として重要視されます。信用調査や支払いに関する取り決めなどへの対応は顧客側としても手間であり、「内容に大差がなければ既存の取引先のままで良い」という心理が働きやすいからです。

取引ごとの営業コストの大小は、売上よりもむしろ利益に影響を与えます。「完全新規で10件5000万円の売上」実績と「既存顧客10社から追加で5000万円の売上」では、売上額は同じでも営業コストを差し引いた利益に無視できない差が発生します。
LTVをきちんと意識し、一歩進んだ「利益の最大化」に取り組めるようにしましょう。

〈活用例〉

事業の拡大期に新規獲得施策を積極的に行い売上もそれなりに伸ばせたが、思うように利益にはつながっていないという問題が発生していた。
顧客の一覧を確認してみると、営業活動が新規顧客開拓に偏りすぎて従来の既存顧客へのフォローが疎かになり、取引の終了や規模の縮小を招いてしまっていたことがわかった。
LTVの考え方に基づいて「平均購入頻度」や「平均継続期間」もマーケティング活動のKPIとして設定し、既存顧客向けのフォロー施策(カスタマーサクセス施策)にも一定の予算を割くようにした。それによって既存顧客との取引量が再び拡大し、利益率も改善された。

2.【戦略編】マーケティングの戦略を考えるようになった時に身につけたい重要フレームワーク5選

戦略レベルでのマーケティングにおいてもっとも重要なのは「新しい事業機会(市場)の発見と創出」です。マネジメントの神様といわれたドラッカーも「企業の唯一の目的は顧客(市場)を創造することである」と述べています。
この章では社会環境から新たな事業機会を発見し、自社の新事業として確立させるために役立つ5つの重要フレームワークを紹介します。

  1. PEST:より広い観点から自社を取り巻く環境を整理する
  2. SWOT:新たな事業機会を発見する
  3. 5F:参入を検討する市場や業界の魅力を評価する
  4. バリュープロポジション・キャンバス:価値提案と市場の合致状況を評価する
  5. PPM:予算配分の適切性を検証する

まず「PEST」でマクロ環境の状況を整理します。その結果を会社内部の状況と合わせて「SWOT」を用いて整理し、新たな事業機会を探っていきます。
候補となった市場の収益性は「5F」で評価します。リターンが得られると判断されれば参入し、「バリュープロポジション・キャンバス」を利用して市場ニーズとフィットするようにサービスの内容を練り上げていきます。
このようなことを繰り返していると事業の多角化が進みすぎてしまいます。そうなったときは「PPM」の考え方で事業群の整理を行い、投資にメリハリを付けながら全体としての収益性を高めていきます。

▼戦略フレームワークの関係図

2-1.PEST:より広い観点から自社を取り巻く環境を整理する

▼PESTのイメージ

〈概要〉

PEST(ペスト)とは「Politics(政治)」「Economy(経済)」「Society(社会)」「Technology(技術)」の4つの要素の頭文字を取った言葉で、自分たちでは直接的には影響を及ぼせないような世の中の全体的な動向(マクロ環境)を分析するためのフレームワークです。アメリカの経営学者フィリップ・コトラーの提唱です。

こうした間接的な周辺環境に対する分析は「マクロ環境分析」と呼ばれます。マクロ環境分析は個別の事象よりも「市場環境の全体感」を捉えることを重視するため、5〜10年といった長期スパンで物事を見ていきます。

〈使い方〉

PESTは「マクロ環境に対するぬけもれのない分析の視点」を提供するフレームワークであるため、分析に決まった手順があるわけではありません。政治・経済・社会・技術の各領域において、中長期のスパンで自社の市場や競争環境に影響を与えそうな情報を収集し、その影響の内容や度合いを評価するのが基本となります。
どのような情報を観測対象とするかはさまざまですが、一般には次のようなものが挙げられます。

  • Politics(政治)→法規制もしくは規制緩和、税制の変更、政権交代による政策方針の変更、司法判決による判断の変更、外交や戦争など国際関係の動向など。
  • Economy(経済)→株価などの景気動向、物価指数や賃金の動向、為替や金利、など。
  • Society(社会)→人口動態、世論の変化、生活スタイルの変化、教育の変化、など。
  • Technology(技術)→技術革新、特許など。

〈解説〉

企業の経済活動はあくまで社会の一部であり、一企業では大きな流れに対して逆らうことは出来ません。これらの要素は「所与の条件」として受け入れながら戦略を考えていくこととなります。
マーケティングにおいては「現状の分析」だけでなく、「将来の予測」に用います。3年後、5年後、あるいは10年後の未来にPESTの各要素がどのような状態に変化しているのかを予測することで、そこに生まれるであろう新たな事業機会・市場に備えていきます。

PESTはマクロ環境を捉える一例に過ぎず、バリエーションも存在します。近年では特に次の2点が重要性を増してきており、あわせてPESTLEと呼ぶこともあります。

  • Legal(法)→Politics(政治)から特に法規制/緩和を独立させたもの。
  • Environment(環境)→天候や気候変動など

〈活用例〉

ケース1:新しい法律の制定

2016年にEUが一般データ保護規則(いわゆるGDPR;General Date Protection Regulation)を制定し、日本においてもEU居住者のデータを収集したり処理したりする場合には適用されることになった。Politics(もしくはLegal)要因に大きな変化が生じたため、今後数年の戦略に見直しの必要が生じた。

ケース2:新型感染症の流行

2019年末から世界的に新型の感染症が流行し、移動の抑制・リモートワークの普及・ビジネスイベントの相次ぐ中止などの変化が発生した。そうしたSociety要因の変化に対し、顧客と直接顔を合わせなくても済むような新たな営業・マーケティングコミュニケーションのスタイルの確立が急務となり、それをサポートする新たなビジネスの市場が生じた。

2-2.SWOT:新たな事業機会を発見する

▼SWOTのイメージ

〈概要〉

SWOT(スウォット)とは「Strengths(強み)」「Weaknesses(弱み)」「Opportunities(機会)」「Threats(脅威)」の4単語の頭文字を取った言葉で、自社の内部環境と外部環境をポジティブな側面とネガティブな側面から整理するフレームワークです。自社にとっての経営課題の特定や新たな事業機会の洗い出しに役立ちます。

〈使い方〉

「内部/外部」の軸と「ポジティブ/ネガティブ」の軸でマトリクスを作ると、掛け合わされるセルがそれぞれ「Strengths(強み)」「Weaknesses(弱み)」「Opportunities(機会)」「Threats(脅威)」に相当するものとして整理されます。

  • ポジティブな内部要因→Strengths(強み)
  • ネガティブな内部要因→Weaknesses(弱み)
  • ポジティブな外部要因→Opportunities(機会)
  • ネガティブな外部要因→Threats(脅威)

「機会」や「脅威」の洗い出しに役立つのが「PEST分析」のフレームワークです。数年後の社会の変化を予想しながら、そこにどのような「機会/脅威」が生まれるかを考えます。

応用としてマトリクスの組み方をかえた「クロスSWOT」という手法もあります。これは「現状の分析」というよりも、「現状を踏まえた次の行動の検討」に用いるフレームワークです。

SWOTで分析した項目の中から特に重要そうなものをいくつか抜き出し、「機会/脅威」軸と「強み/弱み」軸で再びマトリクスを作ります。それぞれのセル、例えば「強み×機会」のセルに「自社の強みを用いて機会を活かせそうな取り組み」を書き入れることで、マーケターにとっては新たな事業機会や開拓すべき新規市場を発見できます。

  • 強み×機会(SO)→自社の強みを用いて機会を活かせそうな取り組みはないか
  • 弱み×機会(WO)→自社の弱みを補って機会につなげるためにすべきことはなにか
  • 強み×脅威(ST)→自社の強みを用いて脅威をカバーしたり回避したりできないか
  • 弱み×脅威(WT)→どのようにしたら弱みと脅威を回避できるか

▼クロスSWOTのイメージ

〈解説〉

マーケティングは「市場の状況(機会/脅威)に、企業が自らの特徴(強み/弱み)を適合させていくこと」と捉えることも出来ます。SWOTおよびクロスSWOTはそうした取り組みに役立つフレームワークです。
SWOTの方が「現状を整理する分析」であり、クロスSWOTが「それを踏まえた行動を導き出すアイデア出し」となります。この点を混同すると、ある状況に対して短絡的に「こうするしかない」という思い込みを生んでしまうおそれがあるので、注意しましょう。

SWOT分析において重要なのは「すべてのことは脅威であるとともに機会である」「弱みであるとともに強みである」という考え方です。SWOT分析の作業には「ポジティブ/ネガティブ」という軸を用いるため、どうしても作業者の主観が入ります。
見通しに悲観的だとあらゆる要素が「ネガティブ」に見えるかもしれませんが、それは捉え方の問題です。優れたマーケターはあらゆるところからポジティブな「強み/機会」を見つけだし、新たなビジネス構想へとつなげていきます。フレームワークを活用しながら、柔軟な発想を身に着けられるようにしましょう。

〈活用例〉

新型感染症の拡大にともなう社会環境の大きな変化に対し、SWOT分析による状況の評価を行った。
「企業のマーケティング投資が控えられる可能性がある・従来重視してきたリアル展示会が施策の選択肢から消える」などの「脅威」はたしかに認められるものの、「非対面・オンラインのマーケティング活動・営業活動へのニーズが高まる」という「機会」や「Webマーケティングのノウハウをすでに社内に持っている」という「強み」もあることを確認した。
「強み」と「機会」から「企業向けのWebマーケティング支援を新たにサービスとして提供する」とする行動を導き、新たな事業としてむしろ全体的な売上を伸ばすことに繋げられた。

2-3.5F:参入を検討する市場や業界の魅力を評価する

▼5Fのイメージ

〈概要〉

5F(ファイブ・フォース)とは、ある市場・業界における5つの要素を指す言葉で、その市場の収益性(魅力)を評価するためのフレームワークです。マイケル・ポーターが『競争の戦略』(1995)の中で提唱しました。

  • 業界内の競争=直接の競合企業にはどのようなものがあり、どれほどの競争力をもっているか
  • 買い手の交渉力=販売商談において顧客がどれほどの主導権をもっているか
  • 売り手の交渉力=仕入れ商談において供給業者がどれほどの主導権をもっているか
  • 新規参入の脅威=外部からの参入は容易か、障壁の高さはどれほどか
  • 代替品の脅威=市場ニーズそのものを吸収してしまうような代替品はあるか

〈使い方〉

5つの箱を十字を描くように配置し、それぞれの箱の中に5Fの各要素を書き入れて行きます。

これらの5つの要素は「その業界のプレイヤー企業の利益を削っていく圧力(フォース)」とみなすことが出来ます。これらが多く強いほどその市場にはプレイヤー企業に利益が残りにくい構造がある、つまり収益性に乏しく魅力にかけると判断されます。

単に状況を評価するだけでなく、圧力要素を回避したり軽減したりする施策を考えることで能動的に市場の魅力を高めることもできます。

〈解説〉

SWOT分析などを経て「自社にとって期待できそうな新しい市場」が浮上した時に、5F分析を用いて市場の魅力を評価します。もし自社の「強み」などに合致していたとしても、競争が激しく利益を出しにくいのであれば新たに参入する「うまみ」はありません。自社がきちんと大きな利益を期待できるように新規参入先を検討するのに役立ちます。

5F分析はSTP分析とセットで用いられることがあります。「市場全体の良し悪し」を評価するのが5F分析であり、「その市場の中でどのようなポジションを取っているか」を整理するのがSTP分析です。
もし市場の中では良いポジションを確保できていたとしても、市場そのものが「利益を残しにくい構造」を持っていたとしたら、成長は期待できません。新規参入市場の評価だけでなく、自社が利益を上げられていない原因を特定する際にも使えるフレームワークです。

〈活用例〉

新たな市場の候補として「企業向けのWebマーケティング支援」にという機会を発見したが、その市場で本当に大きな収益を期待できるかどうかはまだわからなかった。
5F分析を実施したところ、「売り手の交渉力」「買い手の交渉力」「代替品」については大きな圧力要素はないと判明した。一方で「業界内の競争」「新規参入の脅威」には不安要素があり、特に同様の商機を感じ取った他社の参入によって現在の状況よりも競争が激しくなることが予想されるともわかった。
そこで参入先をより自社の強み(既存のノウハウ)を専門的に活かせる狭いセグメントに設定し直すことで、「新規参入の脅威」を減らすことにした。

2-4.バリュープロポジション・キャンバス:価値提案と市場の合致状況を評価する

▼バリュープロポジション・キャンバスのイメージ

〈概要〉

バリュープロポジション・キャンバスとは、自社のサービスの「価値提案(バリュープロポジション)」が、顧客のニーズに本当に合致しているのかどうかを検証するフレームワークです。今回紹介するものの中では比較的新しく、日本では2015年に発売された『バリュー・プロポジション・デザイン』をきっかけに知られるようになりました。

〈使い方〉

このフレームワークでは顧客の「Job(解決したい課題)」「Gains(利得)」「Pains(悩み)」と、提供する価値の3つの要素「Products & Services(製品やサービスそのもの)」「Gain Creators(利得を生み出す要素)」「Pain Relievers(悩みを取り除く要素)」の対応を考えます。

プロダクトの提供価値 Value Propotison 顧客セグメント Customer Segment
Products & Services
=製品やサービスそのもの
Job(解決したい課題)
=顧客が達成したいこと・実現したい状態
Gain Creators
=顧客にとってのGains(利得)を生み出す要素
Gains(利得)
=顧客が課題解決のために求めている要素
Pain Relievers
=顧客にとってのPains(悩み)を取り除く要素
Pains(悩み)
=顧客の課題解決を妨げる要素

まずは顧客の「Job(課題)」に起因する「Gains(利得)」と「Pains(悩み)」が何であるかを正しく捉えます。それらに対して「製品・サービス」が「利得を与えられているか」「悩みを取り除けているか」の合致をみることで、プロダクトが顧客のニーズに本当に応える価値提案を行えているかを評価できます。
この「製品の価値提案と市場のニーズが合致している状態」のことを特にPMF(プロダクト・マーケット・フィット)といいます。PMF実現に向けて、プロダクトの持つGain CreatorsやPain Relieversの要素を何度も調整していきます。

  1. Job(課題)を特定する
  2. Jobに対するGains(利得)とPains(悩み)を特定する
  3. 対応するGain CreatorsとPain Relieversを設計する
  4. Products & Servicesとして統合する
  5. PMF実現に向けて調整する

▼バリュープロポジション・キャンバスの使い方

〈解説〉

PEST分析やSWOT分析で新たな事業機会を発見し、その市場の収益性も5F分析で評価したあと、具体的に新しい事業やサービスを作っていく段階で役立つのがバリュープロポジション・キャンバスです。キャンバスを見ながらサービス内容を練り上げ、新しい市場(セグメント)における自らの立ち位置(ポジション)を確立させます。

ちなみに、バリュープロポジション・キャンバスは「ビジネスモデル・キャンバス」という別のフレームワークから一部を切り出したものとして捉えられます。ビジネスモデル・キャンバスはマーケティング・ミックスの4P全てを網羅しているのに対し、バリュープロポジション・キャンバスはそのなかのProduct要素に特に焦点を当てています。
新規市場への参入時にはまず「PMF=製品の価値提案と市場のニーズが合致している状態」の達成が全ての土台として重要になるため、バリュープロポジションから考えていくことが有効です。

〈活用例〉

新たな市場において大まかには「Webマーケティングを強化したい」というJob(解決したい課題)があることはわかっていたが、サービス設計としては大味でテスト営業に苦戦していた。
そこでテスト営業で得た情報をバリュープロポジション・キャンバスに従って整理した。顧客がどのような「Gain」と「Pain」を持っているかを特定し、それに合わせてサービスの詳細を「顧客にとってのGainを生み出し、Painを取り除く」ことができるように設計し直した。
「製品の価値提案と市場のニーズが合致している状態」を実現したことで商談での成約率や問い合わせの獲得数が飛躍的に伸び、大きな売上を出せる新サービスとして確立させることが出来た。

2-5.PPM:予算配分の適切性を検証する

▼PPMのイメージ

〈概要〉

PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)は、自社の提供している事業や商品のラインアップの特徴を理解するためのフレームワークです。BCC(ボストンコンサルティンググループ)が1970年代に提唱しました。長期的な成長のために自社の経営資源をどのように配分していくかを検討するときに役立ちます。

〈使い方〉

PPMにもさまざまなバリエーションがありますが、一般的な方式では「相対マーケットシェア」「市場成長率」の2軸でマトリクス図を形成しその中に事業(商材)をプロットし「花形(Star)」「金のなる木(Cash Cow)」「問題児(Question Mark)」「負け犬(Dog)」の4種に分類します。

  • 花形(Star)=高い成長性×高いシェア。高い売上を保てるように投資を続ける。
  • 問題児(Question Mark)=高い成長性×低いシェア。現状では利益貢献は少ないが、競争を勝ち抜いて「花形」に移行できるようにリスクを取って投資する。
  • 金のなる木(Cash Cow)=低い成長性×高いシェア。安定市場の稼ぎ頭。競争圧力が小さいので利益を増やすために追加投資は絞る。
  • 負け犬(Dog)=低い成長性×低いシェア。先の期待に乏しいので追加投資は絞り、可能ならば撤退する。

市場成長率が高い「花形」「問題児」に対しては積極的に経営資源を投入して大きなリターンを得ることを目指し、逆に現状でも一定の利益が見込めて市場全体の成長も落ち着いている「金のなる木」に対しては投資を絞りながら利益率の最大化を目指します。成長率・市場シェアがともに低い「負け犬」に対しては他事業とのシナジーなども踏まえて総合的に判断する必要がありますが、基本的にはこれ以上傷を広げないように縮小・撤退の方向で動いていきます。

〈解説〉

参入当初はどれほど魅力的であっても、一つの市場だけで大きな利益を上げ続けることはできません。新しい市場・新しい顧客の開拓は企業にとって必要不可欠な活動です。一方で経営資源は限られており、成長市場で大きな成果を上げるためには事業投資にメリハリを付ける必要があります。
参入当初は魅力的だった市場や事業であっても、長く続けているうちに環境は変わっていきます。定期的に自社のポートフォリオを見直し、限られたマーケティング予算をきちんと「使うべきところ」に使えているかを検証しましょう。

また全てのフレームワークに共通することではありますが、PPMは特にその「限界と弱点」を指摘されることが多いフレームワークです。

  • 業界や事業によっては「相対マーケットシェア」「市場成長率」での分類が必ずしも適切ではない
  • 実際の利益(利益の絶対量)が考慮されていない
  • 事業間のシナジーが考慮されいない
  • ラベル付けをすることでその事業に所属する従業員のモチベーションを削いでしまう、など

あくまで「事業ポートフォリオを分析する手法の一つ」として捉え、依存しすぎないようにしましょう。

〈活用例〉

多くの機会を捉えて様々な新規市場に事業を展開して行ったが、いつのまにか各事業で競合に対して劣勢となり、利益が上がらない状態になってしまった。
PPM分析を行ってみると、「金のなる木」「負け犬」に分類される事業にも多くの投資を行っており、その分「花形」「問題児」への投資が競合に対して不足していたために競争力を徐々に失っていってしまっていたとわかった。
「負け犬」に対しては思い切って事業を整理して撤退、「金のなる木」への投資も最低限に抑え、「花形」「問題児」への投資を増強することで競争力を取り戻し、利益を再び伸ばすことに成功した。

さいごに:「道具」に依存しすぎず、目の前の現実に向き合うべし

フレームワークは幅広いマーケティング活動の全体を理解し、自身が担う業務のあるべき姿を理解するために非常に有用なものです。
しかし本当に重要なのは、それに頼りすぎず自らの業務・自社の状況にあわせてアレンジしながら使いこなすことです。フレームワークはあくまで「過去の状況をあとから振り返ることでまとめられた理論」であり、日々変化するビジネスの最前線の状況に使い続けられるとは限りません。

例えば今回紹介した「マーケティング・ファネル」のフレームワーク。従来は「受注」をゴール地点とした「シングル型」の理解が一般的でしたが、近年ではその先の「継続」「紹介」「発信」などの段階まで含めた「ダブル型」として考えたほうが適切なビジネスモデルも多くなっています。

先人の「理論」は助けにはなりますが、ビジネス実践の現場においては常に目の前の「現実」が優先されます。フレームワークを絶対視してしまうと、現実の重要な情報を見落としたり認知を歪めたりして誤った判断をしてしまいかねません。あくまで「自身の業務を助ける道具」として捉え、現実に即した改良を加えながら活用していくように心がけましょう。

中島慧一

中島慧一 経営企画・マーケティングコンサルタント

大学で建築、大学院でコミュニケーションを学んだ後、2017年にアジタスに入社。自社のマーケティングおよびお客様のマーケティング支援を担当し、展示会においてはしばしばセミナー講師を務める。企画面ではホワイトペーパーを活用したソリューションの提案が得意。 マーケティング活動を「企業と市場のコミュニケーション」だと考え、企業の持つポテンシャルを市場に正しく届けていくために日々奮闘している。

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